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宵歩き
ざわめく心を落ち着かせようと歩く宵闇。
きんと冷える空気ですら、中々頭に残る熱は収まらない。
理由は明白。
どうしようもない思いを昇華させたくて…静かな闇を一人行く。
―――カツン―――
更に一歩踏み出そうとした最中、小さな音一つ、足元に転がる石ころ。
飛んできた先を見れば―――彼だ。
「よお」
変わらぬ緊張感のない挨拶。
片手を上げ、仄か眠たげな視線を向けながら、薄い笑みと共に歩み寄る。
長い土色の一房が、夜風に揺れた。
……と、思えば。
―――ピシッ!
額に走る微かな痛み。
「~~~っ!何するのよっ」
「ったく、何て面してんだよ。眉間の皺は幸が逃げるんだぜ」
「貴方に、関係ないでしょう」
「出た、リィの常套句。冷たいねぇ。それが師と仰ぐ相手に言う台詞かよ」
「……師であることは認めるけれど、仰いだ覚えは一度もないわ」
「おーおー、冷たいねぇ」
大袈裟に両手を上げて首を振る様は芝居染みていて。
その滑稽さに毒気を抜かれてしまう。
小さくため息をつけば、またもや……
―――ピシッ!
「―――っ!だから……!」
「ため息も、幸が逃げるんだぜ。まったく、弟子の不幸を止めるなんていい師匠だろ」
「……一生言ってなさいよ」
「あれだろ。マギラント」
「……っ」
「わかってんよ。俺にだって見えてるし聞こえてんだ」
「……」
言い当てられてつぐんだ口。
自然と視線が彼を避けて地面へと走る。
大きなものが、頭に被さるのが――分かった。
骨ばった…彼の掌。
「怒れよ」
「……え?」
「怒ってんだろ。あいつの言葉に、やり方に」
「……」
「其れに呑まれるなら止めてやるさ。無理に無かったようにすんなって。
でも、まー…きっと大丈夫じゃねぇの?
お前が思ってるやつらもさ、そんなに弱かねえんじゃねぇの。
天辺に立ってたんだろ、今までさ。あの歳で……って、実際の年齢しらねーけど。
揺らいだら支えてやりゃいい、まだなんも始まってねぇよ。動くのはこれからだ。
動くまでは、お前も心のままでいていいんじゃね?あいつらの為に怒るのもいい。
冷静になんのは、事が始まってからでいいんじゃね?」
……この人は、いつだってそうだ。
何でも見通したようでいて……狡いのだ。
「ーーーっ!でぇい!!!
おい待て、何で今俺に向かって魔道書の角当ててきた!?
避けなかったら当ってたぜ?俺じゃなかったら当ってたぜ?直撃、青タンものだぜ!?」
「怒っていいって言ったじゃない。当てる心算だったのよ。なんで避けたの」
「いやいやいや。怒っていいとは言ったがよ。八つ当っていいとは言ってねえよ」
「なによ、ケチね」
「ケチでいいよ、痛いのは勘弁。ったく、可愛くねーな相変わらずよ」
「貴方相手に可愛くあろうなんて思ってないわよ」
「あーはいはい。わかってんよ。…ま、そんだけ言えりゃ上等だな」
避けた拍子に取った距離。
其れを少しずつ広げていく。
ああ、去るのだ、と思った。
「まあ、あれだ」
「なによ」
「これからどう転がるかはわかんねぇ。だからよ、今をお前のままでいな」
「……」
「そいつらにも、あんま心配かけんじゃねーぞ」
彼が示した先には、いつの間にか……小さな灯が揺れていて――
次に目を上げた時には…闇に消える、土色の一房が見えただけだった―――
……狡いわよ、本当に……
指先で、消えた皺に触れながら
踵を返した
言の葉に変えるのは癪だから
腕に抱く炎の彼へ
その力を少しだけ強めるに変えて
―――ありがとう―――
マギラントの時限(?)で
アリスも私もぶわぁ!となっていたので、
エーデの手によってちょびっとクールダウン。
そんな日常。でした。
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